領域代表 林(高木)朗子
理化学研究所 脳神経科学研究センター 多階層精神疾患研究チーム
Research
A01 データ駆動型アプローチ
主要な精神疾患である統合失調症は、遺伝要因と環境要因の複雑な相互作用によって発症に至ると考えられているが、効果量の大きい遺伝要因は同定されておらず、詳細な発症メカニズムや分子病態は明らかではない。近年、脳神経系細胞のゲノムには多様な体細胞変異が存在しており、体細胞変異の頻度やパターンが、精神疾患の病因や病態と密接に関係している可能性が考えられている。特にトランスポゾンLINE-1 は神経前駆細胞において活性化され、体細胞新規転移が生じていることが知られている。我々は統合失調症患者死後脳において、トランスポゾンLINE-1 のゲノムコピー数が上昇しており、神経機能に重要な遺伝子に新規挿入が生じていること、また、母体免疫活性化による統合失調症動物モデルにおいてLINE-1 コピー数の上昇が確認できることなどを明らかにした。しかしながら、ヒト試料中心の研究だけでは因果関係の検証が困難であり、転移活性が過剰になる神経前駆細胞の機能変質の分子機構に加え、どのような脳神経細胞、脳神経回路、脳領域が影響を受けた結果、最終的に精神症状の発現に至るかはブラックボックスのままである。
本研究計画では、脳機能マルチスケール現象解明に特化した本領域の専門性を最大限活用した研究計画により、分子から行動までのブラックボックスを明らかにしていく。
研究期間内に、1)精神疾患動物モデルにおいてトランスポゾン活性を操作し、トランスポゾン新規挿入が生じた脳神経系細胞の細胞種、神経回路、脳領域を同定し、精神症状関連表現型との対応関係を明らかにする。2)新規挿入が生じた神経細胞の神経化学特性、形態学的特徴を明らかにし、in silico 回路モデリングを行う。3)統合失調症患者死後脳において動物モデルで同定した神経回路・脳領域に体細胞変異の集積があるかをゲノム解析により再検証する。