領域代表 林(高木)朗子
理化学研究所 脳神経科学研究センター 多階層精神疾患研究チーム
Research
A03 仮説検証に力点を置いたアプローチ
さまざまな精神疾患の病態生理に、大脳皮質の興奮性シナプスが関与すると考えられている一方で、ヒトにおけるシナプトパチーの病理的意義は手付かずであり、シナプス階層が行動という上位階層を制御する責任病態生理なのか、それとも付随する現象に過ぎないのかは未解明である。そこで本研究では、最先端in vivoイメージング・レコーディング・光操作、iPS技術を結集し、異常行動前後や病態進行の過程でのシナプス動態や神経発火を定量的に記述し、各階層において病態生理の候補となりうる要素を光操作し、その摂動の結果を観察する。領域内共同研究により、これらのウエットデータから特徴的な要素を抽出し、この要素をin silico操作することで膨大な仮想実験を試行し、ウエットの実験系だけでは困難な仮説検証を行う。モデル動物の回路機能不全に寄与する要因が神経の演算機能なのか、受容体特性にあるのか、あるいは回路ダイナミクスかなどのシステムレベルの知見を蓄積する。さらにはモデリングで得られた主要ファクターを分子操作するための光プローブを作成し、主要ファクターを分子操作し、シナプス・細胞データや課題遂行パフォーマンスなどの行動階層の表現型が実際にどのように変化するかを再検証し、階層を跨いだ因果関係を探索する。またげっ歯類モデルで得られた所見が患者由来iPS細胞でどのように再現するか、また分子・シナプス介入操作に伴う生理的な応答をiPS由来神経細胞で検証する。このようにin vitro/in vivo光操作(分子操作、シナプス操作、回路操作)とモデリング(in silico病態モデリング)を相互にフィードバックすることにより統合失調症モデルマウスの病態生理をシナプスレベルからシステムレベルまでマルチスケールに理解すること、これらの所見の種間横断性について検証を行い、真に病態生理を担うだろう要素を抽出することに挑戦する。